誰もいなくなった室内練習場に、前田はバットとタオルを持って現れた。ほかのナインはいない。地元のアルバイトにマシンの操作を命令すると、完全に“1人の世界”をつくり上げた。
場内に響くのは、バット、マシン、そして前田の不満から来る絶叫のみだった。「あー…」「何でや?」「これじゃ、ダメや」。そして度重なるため息だ。沈黙はあっても、感嘆の言葉を発することはない。
ナインのほとんどがメニューを終え、宿舎へ戻っても、前田は1球1球に全身全霊の集中力を注ぐ。「これが最後の球です―」。マシンを操作したアルバイトが話した最後の球をライナー性で打ち返しても、ニコリともしなかった。
27日でキャンプ打ち上げ。最終日は午前中のみの練習となることを考慮すれば、事実上の“打ち納め”だった。今キャンプ最長の90分間特打。練習を終えて、10分近くパイプいすに座り込んでも、その険しい表情が変わることはない。「この時期にきたからといっても、納得することなんか何もないよ」。“究極”を目指す人間は、キャンプ終了前日に、あえて自分を追い込んだ。
17日には、ブラウン監督から黒田とともに、キャプテンに任命された。指揮官の最初のお願いは「野球選手として、ウエートの仕方などを他の選手に教えてやってほしい。ただし、強制はしないようにしてくれ、と言われた」というものだった。現時点で積極的に相談に来る若手がいないのが少しばかり寂しいが「キャプテンとしての仕事はこれから」と表情を緩めた。
キャプテンになったからといって、前田の行動が大きく変わることはない。自分に厳しく、そして、チームにも厳しく。早くも、3月3日のオリックス戦に出場する予定の前田。背中でチームを引っ張っていく。
前田の打撃論は正直そこらへんの選手では理解できないところがあるらしい
とにかく説明しても、それを理解する選手があまりいない
究極を目指す人間だからこそ、妥協しない
究極の打撃論を果たして何人の選手が理解し、会得できるのだろうか
かつて、あのイチローが目標としていた打者であり
落合がみとめる天才打者
キャプテンとしての前田はチーム内でもとても怖い存在である


